アキレス腱の上を押すと痛みを感じる場合、原因は様々です。この記事では、考えられる原因となる疾患や、痛みを和らげるための対処法、病院を受診する目安について解説します。

記事の監修者情報

吉原 稔

資格:柔道整復師 (整骨院を開業できる国家資格)
柔道整復師専科教員(大学、専門学校の柔道整復師科で講義することができる資格)
NSCA CSCS(全米ストレングス・コンディショニングスペシャリスト)
経歴
2010~2015年 医療法人堺整形外科医院 福岡スポーツクリニック
2015~2017年 医療法人TSC タケダスポーツクリニック
2018~現在 よし姿勢&スポーツ整骨院・整体院
2014~2017年 福岡医療専門学校 非常勤講師
2015~2023年 九州医療専門学校 非常勤講師
2024~現在   福岡医健・スポーツ専門学校
 非常勤講師

アキレス腱の上を押すと痛い:考えられる原因

アキレス腱炎:炎症による痛み

アキレス腱炎は、アキレス腱に炎症が起こることで痛みが生じる状態です。スポーツや過度な運動、靴との摩擦などが原因となることがあります。初期段階では、運動後や起床時に痛みを感じることが多く、進行すると安静時にも痛むことがあります。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ重要な腱であり、歩行やジャンプなどの動作において大きな役割を果たします。そのため、炎症が起こると日常生活に支障をきたすことがあります。アキレス腱炎は、腱自体に小さな断裂が生じ、それが修復される過程で炎症を引き起こすと考えられています。

アキレス腱炎の主な症状は、アキレス腱周辺の痛み、腫れ、熱感です。運動後や長時間の歩行後に症状が悪化することがあります。また、アキレス腱を押したり、つま先立ちをしたりすると痛みが強くなることがあります。重症化すると、安静時にも痛みが続くようになり、歩行が困難になることもあります。

アキレス腱炎の診断は、通常、医師による問診と身体診察によって行われます。アキレス腱周辺の圧痛や腫れ、可動域の制限などを確認します。必要に応じて、レントゲン検査やMRI検査を行い、他の疾患との鑑別や炎症の程度を評価することがあります。

アキレス腱炎の治療は、保存療法が中心となります。安静、冷却、圧迫、挙上(RICE療法)が基本となります。また、消炎鎮痛剤の内服や外用薬の使用も有効です。理学療法では、ストレッチや筋力トレーニングを行い、アキレス腱やふくらはぎの柔軟性や筋力を改善します。重症の場合には、ギプス固定や手術が必要となることもあります。

アキレス腱周囲炎:腱を覆う組織の炎症

アキレス腱周囲炎は、アキレス腱を覆っているパラテノンという組織に炎症が起こる状態です。アキレス腱自体に炎症がなくても、周囲の組織が炎症を起こすことで痛みを感じることがあります。山形済生病院などの医療機関で詳しい解説がされています。

パラテノンは、アキレス腱の表面を覆う薄い膜状の組織で、アキレス腱がスムーズに動くのを助ける役割があります。この組織に炎症が起こると、アキレス腱の動きが制限され、痛みが生じます。

アキレス腱周囲炎の主な原因は、オーバーユース(使いすぎ)です。ランニングやジャンプなどの繰り返しの動作によって、パラテノンが摩擦され、炎症を引き起こします。また、不適切な靴や硬い路面での運動も、アキレス腱周囲炎のリスクを高めます。

アキレス腱周囲炎の症状は、アキレス腱周辺の痛み、腫れ、圧痛です。運動後や長時間の歩行後に症状が悪化することがあります。また、アキレス腱を動かすと、摩擦音がすることがあります。アキレス腱炎との鑑別が重要で、アキレス腱自体に痛みがある場合はアキレス腱炎、アキレス腱の周囲に痛みがある場合はアキレス腱周囲炎の可能性が高いです。

アキレス腱周囲炎の診断は、医師による問診と身体診察によって行われます。アキレス腱周辺の圧痛や腫れ、摩擦音の有無などを確認します。必要に応じて、MRI検査を行い、炎症の程度を評価することがあります。

アキレス腱周囲炎の治療は、保存療法が中心となります。安静、冷却、圧迫、挙上(RICE療法)が基本となります。また、消炎鎮痛剤の内服や外用薬の使用も有効です。理学療法では、ストレッチや筋力トレーニングを行い、アキレス腱やふくらはぎの柔軟性や筋力を改善します。炎症が強い場合には、ステロイド注射を行うこともあります。

アキレス腱付着部症:踵骨との付着部の問題

アキレス腱付着部症は、アキレス腱が踵の骨に付着する部分に痛みが生じる状態です。加齢や長年の負担、繰り返しの運動などが原因となることがあります。踵骨棘という骨の棘ができることもあります。

アキレス腱は、踵骨(かかとの骨)の後ろ側に付着しており、この付着部には大きな負荷がかかります。長年の負担や繰り返しの運動によって、アキレス腱の付着部に微小な損傷が生じ、それが修復される過程で炎症や変形を引き起こします。

アキレス腱付着部症の主な原因は、加齢、オーバーユース、不適切な靴、扁平足、アキレス腱の柔軟性低下などです。特に、中高年の方や、ランニングやジャンプなどの運動を頻繁に行う方に多く見られます。

アキレス腱付着部症の症状は、踵の後ろ側の痛み、腫れ、圧痛です。運動後や起床時に症状が悪化することがあります。また、アキレス腱の付着部を触ると、硬いしこりのようなものが触れることがあります。踵骨棘が形成されている場合には、レントゲン検査で確認することができます。

アキレス腱付着部症の診断は、医師による問診と身体診察によって行われます。踵の後ろ側の圧痛や腫れ、可動域の制限などを確認します。レントゲン検査を行い、踵骨棘の有無や骨の変形を評価します。MRI検査を行うこともあります。

アキレス腱付着部症の治療は、保存療法が中心となります。安静、冷却、圧迫、挙上(RICE療法)が基本となります。また、消炎鎮痛剤の内服や外用薬の使用も有効です。理学療法では、ストレッチや筋力トレーニングを行い、アキレス腱やふくらはぎの柔軟性や筋力を改善します。インソールを使用することで、踵への負担を軽減することができます。保存療法で改善しない場合には、手術が必要となることもあります。

痛風:足首やアキレス腱付近の痛み

痛風は、尿酸値が高い状態が続くことで、足の親指の付け根などに激しい関節炎を引き起こす病気です。しかし、足首やアキレス腱付近に痛みが生じることもあります。特に、アキレス腱周囲に炎症が起こると、押したときに強い痛みを感じることがあります。

痛風は、血液中の尿酸値が異常に高くなることで、尿酸塩という結晶が関節や組織に沈着し、炎症を引き起こす病気です。足の親指の付け根に起こることが多いですが、足首や膝、肘など、他の関節にも起こることがあります。まれに、アキレス腱周囲に尿酸塩が沈着し、アキレス腱炎のような症状を引き起こすことがあります。

痛風の主な原因は、遺伝的な要因、食生活、アルコールの摂取、肥満、腎機能の低下などです。特に、プリン体を多く含む食品(レバー、魚卵、ビールなど)を過剰に摂取すると、尿酸値が上昇しやすくなります。

痛風の症状は、関節の激しい痛み、腫れ、発赤、熱感です。通常、数日から1週間程度で自然に治まりますが、繰り返すことがあります。アキレス腱周囲に痛風発作が起こった場合、アキレス腱炎と間違われることがあります。しかし、痛風の場合は、炎症が強く、痛みが激しいことが多いです。

痛風の診断は、血液検査で尿酸値を測定し、関節液検査で尿酸塩結晶を確認することで行われます。アキレス腱周囲の痛みの場合は、MRI検査を行い、アキレス腱炎やアキレス腱周囲炎との鑑別を行います。

痛風の治療は、薬物療法と生活習慣の改善が中心となります。薬物療法では、痛みを抑えるための消炎鎮痛剤や、尿酸値を下げるための薬を使用します。生活習慣の改善では、プリン体を多く含む食品の摂取を控え、アルコールの摂取を制限し、水分を十分に摂取することが重要です。また、肥満を解消することも、尿酸値を下げるのに役立ちます。

アキレス腱の痛みを和らげるための対処法

安静と冷却:初期対応の基本

痛みを感じたら、まずは安静にしてアキレス腱への負担を減らしましょう。アイシングなどで患部を冷却することも有効です。炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。

アキレス腱に痛みを感じたら、すぐに運動を中止し、安静にすることが大切です。無理に運動を続けると、症状が悪化する可能性があります。安静にする際には、アキレス腱に負担がかからないように、足を高く上げておくと良いでしょう。

アイシングは、炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。氷嚢や冷却ジェルなどをタオルで包み、患部に15~20分程度当てます。これを1日に数回繰り返すと効果的です。ただし、冷やしすぎると凍傷になる恐れがあるので、注意が必要です。

安静と冷却は、アキレス腱の痛みの初期対応として非常に重要です。これらの対処法を行うことで、炎症の悪化を防ぎ、早期回復を促すことができます。痛みが続く場合は、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。

ストレッチ:アキレス腱とふくらはぎの柔軟性向上

アキレス腱やふくらはぎの筋肉をゆっくりと伸ばすストレッチは、柔軟性を高め、痛みを緩和するのに役立ちます。ただし、無理なストレッチは逆効果になることもあるので、痛みを感じない範囲で行いましょう。

アキレス腱やふくらはぎの筋肉の柔軟性が低下すると、アキレス腱への負担が増加し、痛みが生じやすくなります。ストレッチを行うことで、これらの筋肉の柔軟性を高め、アキレス腱への負担を軽減することができます。

代表的なストレッチとしては、壁に手をついて、片足を後ろに引くストレッチがあります。この際、後ろ足のかかとを地面につけたまま、ふくらはぎの筋肉が伸びるのを感じるようにします。15~30秒程度キープし、数回繰り返します。

また、タオルを使ったストレッチも効果的です。床に座り、足を伸ばして、タオルの端を足の指にかけて、タオルを手前に引っ張ります。この際、アキレス腱が伸びるのを感じるようにします。15~30秒程度キープし、数回繰り返します。

ストレッチを行う際には、無理に伸ばしすぎないように注意しましょう。痛みを感じたら、すぐに中止し、少し緩めてから再度試してください。ストレッチは、毎日継続して行うことが大切です。入浴後など、筋肉が温まっている状態で行うと、より効果的です。

テーピング:アキレス腱のサポート

バトルウィンなどのテーピングテープを使用することで、アキレス腱をサポートし、負担を軽減できます。正しい巻き方を参考に、アキレス腱を保護しましょう。

テーピングは、アキレス腱をサポートし、運動時の負担を軽減する効果があります。テーピングテープの種類は様々ですが、伸縮性のあるものを選ぶと、動きやすく、アキレス腱にフィットしやすいです。

テーピングの巻き方としては、まず、足首を90度に曲げた状態で、アキレス腱の下からかかとにかけて、テープを貼ります。次に、アキレス腱に沿って、ふくらはぎの下までテープを貼ります。この際、テープを強く引っ張りすぎないように注意しましょう。最後に、テープの端をしっかりと固定します。

テーピングを行う際には、皮膚がかぶれないように、事前にアンダーラップを巻いておくと良いでしょう。また、テーピングテープは、毎日交換することが望ましいです。テーピングは、あくまでも応急処置であり、痛みが続く場合は、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。

インソール:足への負担軽減

クッション性のあるインソールを使用することで、足への衝撃を和らげ、アキレス腱への負担を軽減できます。特に、かかとの高い靴や硬い靴を履く場合は、インソールを活用しましょう。

インソールは、足裏のアーチをサポートし、足にかかる衝撃を吸収する効果があります。アキレス腱に痛みがある場合、インソールを使用することで、アキレス腱への負担を軽減し、痛みを和らげることができます。

インソールの種類は様々ですが、クッション性のあるものや、アーチサポート機能のあるものを選ぶと良いでしょう。また、自分の足の形に合ったインソールを選ぶことも重要です。市販のインソールだけでなく、整形外科でカスタムメイドのインソールを作成することも可能です。

インソールを使用する際には、靴のサイズに合ったものを選ぶようにしましょう。インソールが大きすぎると、靴の中で足が動きやすくなり、逆にアキレス腱への負担が増加する可能性があります。また、インソールは、定期的に交換することが望ましいです。

病院を受診する目安と診療科

痛みが続く場合:放置せずに受診

痛みが長期間続く場合や、日常生活に支障をきたす場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。放置すると症状が悪化する可能性があります。

アキレス腱の痛みが、数週間以上続く場合や、徐々に悪化している場合は、医療機関を受診することをおすすめします。また、歩行が困難になるほど痛みが強い場合や、アキレス腱周辺に腫れや熱感が強い場合も、早めに受診しましょう。

自己判断で放置すると、アキレス腱炎が悪化し、慢性化する可能性があります。また、アキレス腱断裂を見逃してしまうこともあります。医療機関では、適切な診断と治療を受けることで、早期回復を目指すことができます。

医療機関を受診する際には、いつから、どのような症状があるのか、どのような運動をしているのかなどを、医師に詳しく伝えるようにしましょう。また、現在服用している薬や、過去の病歴なども伝えることが大切です。

急な激痛の場合:アキレス腱断裂の可能性

急に激しい痛みが生じた場合は、アキレス腱断裂の可能性があります。すぐに整形外科を受診し、適切な処置を受けましょう。

アキレス腱断裂は、スポーツ中や日常生活において、急にアキレス腱に強い力が加わることで起こります。断裂時には、激しい痛みとともに、アキレス腱が切れる音がすることがあります。また、つま先立ちができなくなるなどの症状が現れます。

アキレス腱断裂の診断は、医師による身体診察によって行われます。アキレス腱の触診や、トンプソンテスト(ふくらはぎの筋肉を圧迫すると足が底屈するかどうかを調べるテスト)などを行います。必要に応じて、MRI検査を行い、断裂の程度を評価します。

アキレス腱断裂の治療は、手術療法と保存療法があります。手術療法では、断裂したアキレス腱を縫合します。保存療法では、ギプス固定や装具を使用して、アキレス腱を安静に保ちます。どちらの治療法を選択するかは、患者さんの年齢や活動レベル、断裂の程度などを考慮して決定されます。

アキレス腱断裂後は、リハビリテーションが重要です。リハビリテーションでは、アキレス腱の柔軟性や筋力を回復させ、再断裂を予防します。

何科を受診すべきか:整形外科が基本

アキレス腱の痛みの場合、まずは整形外科を受診するのが基本です。専門医が適切な診断と治療を行ってくれます。必要に応じて、リハビリテーションや手術などの治療法が検討されます。

整形外科は、骨、関節、筋肉、神経などの運動器系の疾患を専門とする診療科です。アキレス腱の痛みは、運動器系の疾患であるため、整形外科を受診するのが適切です。

整形外科では、問診や身体診察、レントゲン検査、MRI検査などを行い、アキレス腱の痛みの原因を特定します。診断に基づいて、適切な治療法を提案してくれます。治療法としては、薬物療法、理学療法、装具療法、手術療法などがあります。

アキレス腱の痛みが、スポーツによるものである場合は、スポーツ整形外科を受診するのも良いでしょう。スポーツ整形外科では、スポーツによる怪我や障害に特化した治療を行っています。

アキレス腱の痛みの原因特定と適切なケアの重要性

今回のまとめ

アキレス腱の上を押すと痛みを感じる場合、様々な原因が考えられます。アキレス腱炎やアキレス腱周囲炎、アキレス腱付着部症などが代表的ですが、痛風が原因となることもあります。痛みを和らげるためには、安静、冷却、ストレッチ、テーピングなどが有効です。痛みが続く場合は、放置せずに整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。済生会やリペアセルクリニックなどの情報も参考に、症状に合わせた対応を心がけてください。

アキレス腱の痛みは、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。早期に適切なケアを行うことで、症状の悪化を防ぎ、早期回復を目指すことができます。そのためには、痛みの原因を特定し、それぞれの原因に合わせた対処法を行うことが重要です。

また、アキレス腱の痛みを予防するためには、日頃からアキレス腱やふくらはぎの筋肉の柔軟性を保つことが大切です。ストレッチやウォーミングアップをしっかり行い、運動後にはクールダウンを行うようにしましょう。また、適切な靴を選び、足に負担のかからないようにすることも重要です。

アキレス腱の痛みに悩まされている方は、この記事を参考に、ご自身の症状に合わせた適切なケアを行い、快適な生活を取り戻してください。