マラソン、ジョギング中の膝の痛みは多くのランナーが経験する悩みです。痛みの原因を理解し、適切な対策を講じることで、快適なランニングライフを取り戻しましょう。スポーツ整形外科で8年間勤務した医療系国家資格を持った私が解説いたします。
記事の監修者情報
マラソン中の膝の痛みの主な原因
痛む場所で原因を特定する
膝のどの部分が痛むかによって、故障している箇所や原因を特定できます。痛む場所をチェックしてみましょう。
膝の前側が痛む場合(下の図①②⑥)は、①大腿四頭筋腱炎、②有痛性分裂膝蓋骨、⑥膝蓋腱炎や膝蓋下脂肪体炎、膝蓋骨疲労骨折の可能性があります。
膝の外側が痛む場合(下の図③④⑤)は、③腸脛靭帯炎④外側半月板損傷、変形性関節症、⑤腓骨疲労骨折の可能性が高いでしょう。
膝の内側が痛む場合(下の図⑦⑧⑨)は、⑦鵞足炎や脛骨内顆疲労骨折、⑧内側半月板損傷、変形性関節症、⑨タナ障害が考えられます。
膝の裏側が痛む場合は、半腱様筋腱炎や腓腹筋腱炎などが考えられます。これらの痛む場所を特定することで、適切な対策を講じることが可能になります。

① 大腿四頭筋腱炎:大腿前面の筋肉が硬くなることによって、膝蓋骨(お皿)への付着部に炎症が起きます。
② 有痛性分裂膝蓋骨:もともとお皿は1枚の骨ではなく、小さいときにはお皿の骨になる元が分裂しています。それが大人になるときに1枚の骨になり切れず分裂している人がいます。お皿の外側上方に多く起きます。そこに痛みがあるときは有痛性分裂膝蓋骨かもしれません。
③ 腸脛靭帯炎(ランナー膝):ランナー方の多くがなるためランナー膝といわれる腸脛靭帯炎。腸脛靭帯というバンドが大腿骨の骨に擦れることによって、腱やその周囲が炎症を起こします。
④⑧ 半月板損傷、変形性関節症:やはり走ると関節に負荷がかかります。年齢的な変化や関節に負荷がかかる身体の使い方をしていると半月板や関節の軟骨に負荷がかかり損傷されます。
⑤ 腓骨疲労骨折:腓骨という脛骨(すねの骨)の隣にある細い骨が走りすぎることで疲労骨折することもあります。膝の外側の下のほうが痛みが出だしたら注意が必要です。
⑥ 膝蓋靭帯炎:膝蓋骨(お皿の骨)から脛骨粗面という場所につく膝蓋靭帯(腱)という組織があります。その靭帯が炎症を起こします。俗にジャンパー膝ともいわれますが、ランナーにもなりえます。
⑥膝蓋下脂肪体炎:膝蓋靭帯の下には膝の曲がりを円滑にするために脂肪が誰しもがあります。その脂肪体が大腿四頭筋の筋緊張が強くなることで膝蓋骨の動きや圧迫が強くなり炎症を起こします。
⑥膝蓋骨疲労骨折:膝蓋骨も疲労骨折を起こします。
⑦鵞足、脛骨内顆疲労骨折:鵞足とういう薄筋、縫工筋、半腱様筋という3つの筋肉の腱が集まるところを鵞足(がそく)といいます。その鵞足が炎症を起こします。また鵞足の少し上のほうでは脛骨内顆という所があり、脛骨内顆の疲労骨折もありえるため注意が必要です。
⑨タナ障害(内側滑膜ひだ障害):内側滑膜ひだというものが膝の中にあります。その滑膜ひだが膝蓋骨の圧迫により刺激を加えられ炎症を起こします。
これらの症状の多くは、大腿四頭筋の筋肉の緊張が強くなることで起こることが多いです。ではなぜ大腿四頭筋の緊張が強くなるかというと、走っている最中に臀部の筋肉が疲労して骨盤が後ろに倒れたり、足首が硬いことによって重心が後ろ重心になったりすることで、大腿四頭筋が張りやすい状態で走るためです。
オーバーユース(使いすぎ)による負担
膝の疾患はたくさんありますが、①~⑨の疾患は練習量の増加や無理な走り込みなどが原因で、膝への過度な負担につながり発症することが多いです。
自分のレベルに合わせたトレーニング計画を立てることが重要です。走行距離やペースを急激に上げると、膝への負担が増加し、炎症や痛みを引き起こす可能性があります。私もたくさんの走ってきて痛みが出現した人を見てきていますが、短期間で走る距離やスピードを増やしたりすることで痛みが出ている人がほとんどです。
トレーニング計画は、徐々に走行距離や強度を上げていくことが重要です。
また、疲労が蓄積した状態でのトレーニングは、怪我のリスクを高めるため、適切な休息を挟むことが大切です。
アマチュアの人で月に3,4回フルマラソンを走ったなどの話を聞くこともあります。すごいことですが、気力は良くても、確実に身体は負荷を受けています。
疲労した状態ではケガにつながりやすいです。
自身の体調や疲労度を考慮し、無理のない範囲でトレーニングを行いましょう。
筋力不足と柔軟性の欠如
膝周辺の筋力不足や柔軟性の低下は、膝の痛みを引き起こす原因となります。まず本格的に走る前に特に股関節、膝関節、足関節の柔軟性を改善するためにストレッチや筋力トレーニングから始めることも大切です。
特に、大腿四頭筋、ハムストリングス、臀筋などの筋肉を鍛えることが重要です。これらの筋肉が弱っていると、膝関節への負担が増加し、痛みを引き起こしやすくなります。また、股関節や足首の柔軟性が不足していると、膝への負担が大きくなるため、ストレッチも欠かせません。
走った後は必ずストレッチをしましょう。走った後放置すると疲労は確実に蓄積します。定期的な筋力トレーニングとストレッチを継続することで、膝への負担を軽減し、痛みの予防につながります。

膝の痛みを和らげるための対策
適切なシューズ選び
足に合ったランニングシューズを選ぶことは、膝への負担を軽減する上で非常に重要です。スポーツショップで相談してみましょう。シューズのサイズが合っていないと、足が靴の中でずれたり、足のアーチをサポートできず、膝への衝撃が増加します。
また、クッション性の低いシューズは、地面からの衝撃を直接膝に伝えてしまいます。ランニング初心者は特に自分の足の形や走る路面に合ったシューズを選び、適切なサポートとクッション性を確保しましょう。シューズは定期的に交換し、クッション性が低下したシューズの使用は避けましょう。また既製品のものでもいいのでインソールをいれてみましょう。
効果的なストレッチと筋力トレーニング
膝周辺の筋肉を鍛え、柔軟性を高めるためのストレッチや筋力トレーニングを取り入れましょう。特に大腿四頭筋やハムストリング、殿筋の強化は重要です。大腿四頭筋を鍛えるには、スクワットやランジが効果的です。ハムストリングスを鍛えるには、レッグカールやデッドリフトがおすすめです。ストレッチでは、大腿四頭筋、ハムストリングス、股関節周りの筋肉を重点的に行いましょう。運動前には動的ストレッチ、運動後には静的ストレッチを行うと効果的です。定期的にこれらの運動を行うことで、膝の安定性を高め、痛みを予防できます。
マッサージボールやストレッチポールを活用したケア
マッサージボール、ストレッチポールを活用して、筋肉をほぐすことで、膝の痛みを和らげることができます。手が届きにくい深い部分の筋肉も効果的にケアできます。大腿四頭筋やハムストリングスにマッサージボールを当て、ゆっくりと圧をかけながら転がすことで、筋肉の緊張を和らげることができます。また、臀筋やふくらはぎの筋肉も同様にケアすることで、膝への負担を軽減できます。マッサージボールを使うことで、筋肉の血行が促進され、疲労回復も早まります。痛む箇所だけでなく、周辺の筋肉もケアすることが大切です。
練習後のアイシングと休息
アイシングで炎症を抑える
運動後のアイシングは、炎症を抑え、痛みを軽減するのに役立ちます。特に痛みを感じる場合は、しっかりとアイシングを行いましょう。アイシングは、氷嚢や保冷剤をタオルで包み、痛む箇所に10~15分程度当てます。アイシングを行うことで、血管が収縮し、炎症を抑制する効果があります。運動後だけでなく、痛みを感じた時にもアイシングを行うと効果的です。ただし、冷やしすぎると凍傷になる可能性があるため、注意が必要です。アイシングを適切に行うことで、痛みの早期回復を促せます。
十分な休息と栄養
適切な休息とバランスの取れた食事は、疲労回復を促し、怪我の予防にも繋がります。楽しく走れるよう、体調を整えましょう。十分な睡眠時間を確保し、疲労をしっかり取り除くことが重要です。また、バランスの取れた食事は、筋肉の修復を助け、エネルギーを供給します。
特にタンパク質は、筋肉の回復に欠かせない栄養素です。ビタミンやミネラルも不足しないように、バランスよく摂取しましょう。また走行距離の長い人は、鉄欠乏性貧血などになる人も中にはいます。鉄がりてないときはサプリなどを使ってもいいでしょう。十分な休息と栄養を意識することで、怪我のリスクを減らし、パフォーマンス向上につながります。
専門家への相談
痛みが続く場合は、自己判断せずに専門医やトレーナーに相談しましょう。適切なアドバイスや治療を受けることが大切です。専門家は、痛みの原因を特定し、適切な治療法やリハビリテーションプログラムを提供してくれます。自己判断で無理なトレーニングを続けると、症状が悪化する可能性があります。早期に専門家の診察を受けることで、早期回復につながります。また、専門家は、トレーニング方法やストレッチ方法についてもアドバイスしてくれるため、今後の予防にも役立ちます。
まとめ
膝の痛みを予防し、楽しいマラソンライフを
膝の痛みは、原因を特定して適切な対策を行えば必ず改善できます。無理のない範囲でトレーニングを継続し、マラソンを楽しみましょう。膝の痛みを予防するためには、日頃からのケアが大切です。適切なシューズ選び、ストレッチや筋力トレーニング、アイシング、休息、栄養をバランスよく取り入れることで、怪我のリスクを減らすことができます。また、痛みを感じた場合は、無理をせずに休息を取り、専門家に相談することも大切です。これらの対策を継続することで、膝の痛みを克服し、楽しいマラソンライフを送ることができるでしょう。
引用(間接引用)
https://www.healthcare.omron.co.jp/pain-with/sports-chronic-pain/runners-knee
https://www.healthcare.omron.co.jp/pain-with/sports-chronic-pain/treatment-of-knee-pain-by-running